全人類が1日外出録ハンチョウを読むべき

「おすすめのマンガありますか?」

皆さんは、こんな質問にどういった答えをしているでしょうか? 私の場合は、万人におすすめ出来る薙刀マンガの「あさひなぐ」、現在アニメも放映中の恋愛物の「恋は雨上がりのように」、プラネテスの幸村誠氏が描くヴァイキングの生き様を描く「ヴィンランド・サガ」なんかをよく薦めています。ただ私はこの質問に答えるたびに、心がザワッと波立つのです。「ああ、また嘘をついてしまった」と。とは言ってもここに上げた3つがつまらないという話ではないのです。この3つはいずれも劣らぬ傑作なのは間違いない。そうではなく本当はこれらに加えておすすめしたい作品があるのです。


全人類が読むべき

本当は私「1日外出録ハンチョウ」を強力にレコメンドしたいのに。


賭博破戒録カイジに登場する大槻班長にの一日外出に焦点を当てた作品です。ざっとあらすじをご紹介しますと、高額債務者を集めた地下の強制労働施設。そこのチンチロ賭博で巻き上げた金で大槻班長が一日外出を行い地上を満喫するというものです。カイジを書いた福本伸行氏による作品ではなく、まったく別の方が原作、作画を担当されています(原作・原案:萩原天晴、作画:上原求、新井和也)。ですが絵柄は原作であるカイジと見分けがつかないレベルで瓜二つに仕上がっています。


「1日外出録ハンチョウ」はなんと言いますか、複数の要素が高いレベルでバランスしている稀有な作品だと思います。まず「ギャグ要素」すでに原作のカイジからして、ほぼギャグマンガなのだけど、ギリギリのところでギャグマンガではないという珍しい作品でした。そこから半歩前進して、「1日外出録ハンチョウ」は完全なるギャグマンガとして仕上げています。私は電車で読んでいて大変な目に合いましたので、皆様におかれましては公共の場所では読まない事をお薦めします。


続きましては「グルメ要素」。一日外出で大槻班長は、地上に出ると大体何かを食っているのですが、これが実にうまそうなのです。第一級の飯テロマンガとして良いでしょう。「孤独のグルメ」「甘々と稲妻」など飯テロマンガがブームの様相を呈していますが、これらと並べても「1日外出録ハンチョウ」はなんら遜色ないと言ってよいでしょう。


最後に「日常要素」。そもそもの設定が強制労働施設なので、非日常であるのは間違いないのですが、実際に描かれる場面は地上のごくありふれたシーンばかりです。落ち着いた雰囲気の小料理屋に行ったり、アンテナショップをハシゴして楽しんだりと、我々がすぐにでも実行可能な日常を大槻班長はこれ以上なく満喫しているのです。何気ない日常を楽しみ、価値を見い出す、ああ、こう生きる事が出来たらいいのに。「1日外出録ハンチョウ」は日常系マンガ以外の何者でもない。


「ギャグ要素」「グルメ要素」「日常要素」それら全てが喧嘩することなく完全なる調和をみせつつ融合しています。なんて素晴らしい。全人類が読むべき。


薦めづらい理由

そんな素晴らしい作品なのに薦めづらい理由はその遠さです。「1日外出録ハンチョウ」はカイジのキャラクターに焦点を当てたスピンオフ作品です。正確に書くと「賭博黙示録カイジ」のスピンオフ作品である「中間管理録 トネガワ」という作品が先にあり、その「中間管理録 トネガワ」の2巻に収録されている読み切りでハンチョウの1日外出の話があり、それを別の作品としてスピンオフさせたのが、今紹介している「1日外出録ハンチョウ」なのです。つまりスピオフのスピンオフ、カイジからみたら「1日外出録ハンチョウ」は孫にあたる作品なのです。わかりにくいので図に起しました。

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というわけで「1日外出録ハンチョウ」を余すところなく楽しむには、少なくとも「賭博黙示録カイジ」全13巻、「賭博破戒録カイジ」4巻まで、「中間管理職 トネガワ」の2巻までの全19巻をあらかじめ読む必要があるのです。カイジをあらかじめ読んでいる人なら良いのですが、そうでない人に「1日外出録ハンチョウお薦めだから読んでみて、ああでも前提知識としてこの19冊を読んでおいてね!」なんて言えない。そんな暴言は人として言えない。


19冊を読まないで楽しむ事は可能か?

前提知識が必要という理由で「1日外出録ハンチョウ」を読まないのはあまりにももったいない。例えば、強制労働施設から一日外出するという最低限の設定だけ知っている状態で、本作を楽しむ事は出来ないだろうか? 出来る限り脳みそを空っぽにして「1日外出録ハンチョウ」を読み直してみました。で結果なのですが、うーん、まあ、悪くないっちゃないのですが。うーん、やっぱり前提知識がないと100%楽しめない気が。試しに適当なページで、原作を知っているとより楽しめるポイントに丸をつけてみました。


f:id:notwen:20180318223158j:plain (原作:萩原天晴、作画:上原求、新井和也、1日外出録ハンチョウ第1巻 P34,35より)


なんという事でしょう。「1日外出録ハンチョウ」は原作への愛の強い作品です。だからここまで丸印だらけになるんでしょうね。こんな愛にあふれる「1日外出録ハンチョウ」を原作を読まずに読めなんて失礼極まりない。そんな暴言は人として言えない。もういいや私諦めました。全人類がカイジを読めばいいじゃない。それで解決でしょ。大体、カイジも、トネガワもメチャクチャ面白いので問題ない。「1日外出録ハンチョウお薦めだから読んでみて、ああでも前提知識としてこの19冊を読んでおいてね!」


追記

コミックDAYSで3話まで無料で読めるようです。

comic-days.com