マンガも総合芸術

最近マンガを読んだのです。タイトルは伏せますがどうもイマイチだった。何が悪いのだろう。具体的にどこが悪いとは指摘出来ないのだけどイマイチだった。不思議なんですよねー、元々イラストレーターとして有名になった方が作者なので絵はとても綺麗なのです。綺麗な絵はそこここにあった、だけどイマイチなのです。

「アニメは総合芸術である」そんな主張を聞いた事があります。ですよね! 間違いないと思います。 絵、脚本、演出、動き、音楽、などなど、様々な要素が全て高いレベルで存在しないと真に面白いアニメにはなりません。それぞれの要素は、アニメの場合完全に分業化されており、各分野のプロが魂を込めて作り上げ、それを監督がまとめて一つの作品とするわけです。その完成品を総合芸術と呼ぶのは言えて妙。

アニメだけじゃないよ

総合芸術という点に関して、アニメだけじゃないのではと私は思うのです。マンガもそうだし、もっと言えば小説だってそう。表現媒体が違うだけで、結局さっき上げたすべての要素が求められます。

マンガ家は良い絵を描けないといけません。マンガ家は良い脚本が書けないといけません。マンガ家は良い演出家でないといけません。動きも大切ですよね。コマの中での動きの表現はもちろん、マンガはコマとコマの連なりで動きを表現します。例えば、ジャンプするシーンを描くとして、次のコマで高く飛び上がった状態を描写するのか、間に深くしゃがみこむコマを挿入するのかなどで描かれる動きはまったく違った印象となります。

音楽も重要。「マンガで音楽ってなにそれ」と思われる方もいらっしゃると思いますが、マンガでも音を表現出来ますよ! のだめカンタービレや、四月は君の嘘など音楽をテーマとしたマンガはたくさんあります。もちろんマンガからは基本的に音は出てきませんから、聞いた人の感動を描写するなど間接的な表現にはなります。上手な方はちゃんと音を表現出来る。というか臭いも感触も行ける、上手な方ならいける。

エマが好きです

というわけでね、全部の要素が高いレベルを持っていてさらに、120点の要素もある、そんな作品が面白いのではないかと私は思います。前述のマンガは演出とかが弱かったかも。盛り上げどころのピントがずれている気もしないでもない。

その演出の面ですごいなと思ったマンガは、森薫さんの「エマ」です。メイドものなのですが、主人公のエマをメイドに取り立ててくれた主人であり恩師であるストウナー夫人が亡くなるシーンが凄まじかった。私とかは、悲しみを表現するために「まあ顔のアップで目じりに涙でも溜めておけばいいんじゃない?」とか短絡的に思ってしまうのですが、そんなしょぼい事を森薫さんはやらなかった。持ち主のいなくなったベッドルームがエマの肩越しに見えるというコマで空虚さを表現していました。これです↓

f:id:notwen:20170201032536j:plain (著者:森薫、エマ、2巻 P77より)

「悲しいっ」とか「胸にぽっかりと穴が……」とか余計なセリフは一切無しで、ただ背中を描写しただけで無粋な言葉で表現するより100万倍ぐらいの悲しさが表現出来ています。最初にこのページを読んだ時、表現の上手さに感動してスタンディングオベーションしてしまいました。悲しいシーンでちょっとアレな反応だった気はするのですが、それだけすごい演出だったという事です。

ちなみに森薫さんですが、エマの最初の頃は絵があまりお上手ではなくそこが唯一の弱点でした。しかし、エマが完結する頃には超絶技巧レベルの絵になられたたのですべてが120点レベルの完璧超人漫画家になられています。

あさひなぐも好きです

他では、こざき亜衣さんの「あさひなぐ」でしょうか。高校の薙刀部が舞台の作品です。こちらはとにかくセリフが素晴らしい。専属のコピーライターでも付いているんじゃないかってぐらい心に残るセリフが多いです。

f:id:notwen:20170201032520j:plain (著者:こざき亜衣、あさひなぐ、第11巻 P112より)

これとか最高じゃないですか? ねえ? 「弱ささえ、置いていく事ができるわ。」ふぁあああぁ。いいです、すごくいいと思います。もうこのシーンが好きすぎて、一時期毎日11巻を読んでいました。一日の始まりは、コートには弱さを置いていく事ができることの再確認から。

このあさひなぐですが狂おしくおすすめです。ここまでグダグダとマンガは総合芸術だなんだと書きましたが、そんなの完全に前座であって、このあさひなぐをレコメンドしたいがためにこのエントリーは存在するといってもいい。

主人公の旭は、薙刀がへったくそなのですが、涙と鼻血と汗でぐっちゃぐちゃのべろべろになりながら練習して練習して少しづつ強くなっていくという流れ。こっちにまで汗と防具が臭いが漂ってきます。これぞスポ根、これぞ王道。現在、既刊21巻ですがまったく中だるみを感じません。全人類が読むべき作品なので、皆さん読むように。