国語の教科書にはトラウマ作品がたくさんあったよね

ふとしたきっかけから、国語の教科書に載っていた作品を思い出しています。「スーホの白い馬」「ごんぎつね」「20億光年の孤独」「大造じいさんとガン」「走れメロス」「少年の日の思い出 」「羅生門」「ちいちゃんの影送り」「山月記」ぱっと思いついたのだけでもこれだけあります。読んだのとか一体全体何年前だよって感じなのですが、意外と覚えているものだ。リストアップしてみて気づいたのですが、これらの作品には共通点がありました。メロスだけ例外的にハッピーエンドですが、他のは全部バッドエンドですね。しかも心をえぐるだけえぐって、結局何も解決しないようなきっついのが多い。もっと穏便な話をたくさん教わったはずなのですが、それらはまったく記憶にない。記憶に残りやすいのはきっついお話なのかもしれませんね。


これらのきっつい作品は、子供のうちからままならない社会の厳しさを教えておく役割を負っているのでしょう。ただ中には、もうトラウマレベルの作品もある。私のトラウマ作品はぶっちぎりで「少年の日の思い出」です。こいつはきつ過ぎた。


少年の日の思い出

トラウマなのは確実なのですが、詳細はもう記憶の彼方なのでAmazonで「教科書の泣ける名作 再び」を購入して再読しました。この本は「少年の日の思い出」以外にも「スーホのしろいうま」「走れメロス」「高瀬舟」なんかも収録されている奴です。おすすめ。


訪れた客が語った昔話です。
ぼくは10歳の頃熱心に昆虫採集をしていたんだ。ぼくの両親はりっぱな道具はくれなかったので潰れたボール紙の箱にチョウをしまっていた。ある時、ぼくは珍しい青いコムラサキを捕まえる事が出来た。展翅し乾かした時ぼくは得意になり、隣に住むエーミール少年にそれを見せようと考えた。エーミールは、ぼくのコムラサキを鑑定し、珍しいことは認めるが展翅の仕方が悪い、右の触覚が曲がっている、さらには足が二本欠けているという欠点をあげて酷評した。ぼくは二度と彼に獲物をみせなかった。

それから二年がたち、エーミールがあのクジャクヤママユをサナギからかえしたという噂がひろまった。ぼくはすっかり興奮してしまい、隣に住むエーミールを訪ねた。ノックをしたが返事がない。エーミールはいなかったのだ。せめて例のチョウを見たいとぼくは部屋の中に入った。はたしてクジャクヤママユは展翅板にとめられていた。この宝を手に入れたいという逆らいがたい欲望を感じ、ぼくはクジャクヤママユを部屋から持ち出してしまった。しかし近づいて来たメイドに驚いて、ぼくはとっさにクジャクヤママユをポケットに押し込んでしまったのだ。とんでもない事をしてしまったと、引き返し元に戻そうとするもクジャクヤママユはもう潰れてしまっていた。

ぼくは家に帰りいっさいを母に打ち明けた。母に諭されて、ぼくは謝るためにエーミールの部屋をまた訪ねた。エーミールは必死にクジャクヤママユをもとに戻そうとしているところだった。エーミールにぼくがやったのだと告白した。するとエーミールは激したり、ぼくをどなりつけたりなどはしないで、低く、ちえっと舌を鳴らし、しばらくじっとぼくを見つめていたが、それから「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と言った。ぼくは彼にぼくのおもちゃをみんなやる、集めたチョウも全部やると言ったが拒否された。彼はただぼくを眺め、軽蔑していた。家に帰ったぼくは、集めたチョウを一つ一つ取り出して粉々に押しつぶしてしまった。

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以上がヘルマン・ヘッセ著「少年の日の思い出」のあらすじです。「少年の日の思い出」というタイトルを忘れていても、クジャクヤママユを潰してしまうシーンや、エーミールという名前などが記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。調べてみましたが、この「少年の日の思い出」は教科書への採用率が高い作品らしく、8割ぐらいの中学生が「少年の日の思い出」を学習してトラウマを植え付けられているとのこと。


きついポイント

この作品で一番きついのは、なんと言っても謝罪が受け入れれない点でしょう。


エーミールは、大切なクジャクヤママユを台無しにされたのだから、はらわたが煮えくり返っていたはず。だから子供らしく、「ぼく」を口汚く罵って、ぶん殴ってやればよかったのです。その方が「ぼく」もどんなに楽だったかわからない。しかしエーミールは狡猾なことに、罵る事も殴る事もしません。すべての謝罪の受け入れを拒否し、だた「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と相手を冷笑するという行動にでます。いや、うわー、エーミールこわ。この子10歳前後でしょ? なんで「ぼく」に最もダメージを与える方法を熟知しているのか。やめたげてー。


あまりにきつすぎて、むしろ教育上よくないのではないでしょうか。というか完全にNGでしょ。大人になったら世界の汚さもキツイ部分も嫌でも体験することになるでしょう。ですからせめて子供のうちだけは、綺麗な世界だけをみせてあげたい。だからこんなファッキンなバッドエンドは私が書き換えてやる。


ハッピーエンドへ

そんなこんなで、クジャクヤママユを潰してしまったまではそのままにして、その後の展開を書き換えてハッピーエンドに変更してしまいます。ヘルマン・ヘッセの不朽の名作を私ごときが書き換えるのは、おこがましい行為と言えるでしょう。しかしここで歩みを止めるわけにはいかないのです。私の双肩には日本の子どもたちの未来がかかっているのですから。


それはぼくがやったのだと言い、詳しく話し、説明しようとこころみた。

するとエーミールは激したり、ぼくをどなりつけたりなどはしないで、低く、ちえっと舌を鳴らし、しばらくじっとぼくを見つめていた。

「君」エーミールは眼に涙を浮かべて言った「私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ。君が犯人であることを私は知っていたのだ。私の家から逃げる君を見た。そしてきっと君は謝りにこないと決めつけていたのだ。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ」
ぼくは部屋いっぱいに鳴り響くほど音高くエーミールの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み

「エーミール、ぼくを殴れ。同じくらいに音高くぼくの頬を殴れ。ぼくは君の大切なものを壊してしまったのだ。悪い誘惑にぼくは負けたのだ。君がぼくを殴ってくれなければ、ぼくは君と抱擁出来ない。」 エーミールは腕に唸りをつけてぼくの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

暴君ディオニスは、二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめてこういった。 「真実とは決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしも仲間に入れてくれまいか。どうかわしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」 どっと群衆の間に、歓声が起こった。


いやーこれ完璧じゃないです? 収まるところに収まったじゃないですか。誰も不幸になっていない。素晴らしい。やっぱり太宰治は偉大やったんや。