趣味とか聞かれても困る


「趣味はなんですか?」

あなたが望むにせよ望まぬにせよ、人生においてこの質問は避けては通れないでしょう。自己紹介、合コン、お見合い、面接、初対面同士の飲み会などなど、趣味を披露しなければならない場面はどうしたってあります。なのに私はこの質問は私を悩ませる。「特技はなんですか?」と並んで人生においてトップクラスで答えるのが難しい質問です。私は自分の趣味を喜々として語れる人が羨ましい。なんならその趣味私に分けてください。


といっても趣味を何も持っていないというわけではないのです。むしろ平均より趣味にカテゴライズしてよいものは多く持っていると思う。ぱっと思いつくだけで、アニメ、マンガ、読書、NFL観戦、ゲーム、Tumblrとかを挙げられます。ただこれらがもう気持ちいいぐらいにインドアで完結する引きこもり系趣味で、相手を選びそうなものばかりなのが問題です。私に無い趣味は無難で万人受けしそうな趣味なのです。もし私の趣味に「カメラ」があったら人生楽だったのに。カメラを毛嫌いしている人はまずいないでしょうし「へー、レンズにどのくらいお金突っ込んでます?」とか「旅行とかよくされるんですか?」など話題が縦にも横にも広がります。もし私の趣味に「ウィンドサーフィン」があったらどんなに良かっただろう。スポーツという事でこの人はアクティブな人なんだなと好感をもってくれるでしょう。ちょっと珍しいスポーツでもありますから「あれってどのぐらいスピード出るんですか?」など相手も興味しんしんで食いついてくるに違いありません。


ですが無難な趣味が無いからと言って、むりくり趣味を作るのは危険なのでおすすめ出来ない。カメラを趣味にしようと初心者用一眼レフを買って「趣味はカメラです!」とシャウトした場合、突っ込んだ質問が飛んできて詰みます。「私もカメラやってます! 夜景が上手く撮れなくて困ってるんですがどうしてます?」「えっと、あの、あー、被写界深度がISO感度でパンフォーカスな感じで撮ってます……」


何か私の趣味で使えるものはないか探す

趣味は自然発生的に生まれるものですから、人目を気にして意図的に作るものではないのです。現実を受け入れる他ない。それよりも私の持っている趣味で「趣味はなんですか?」の回答に耐えうるものが本当に無いのかを確認したい。意外といいのがあったりしないかな。


アニメ

アニメはダメじゃないかなー。ダメな気がするなー。アニメに対してネガティブな印象を持っている人ってまだまだ多いと思う。最近「君の名は。」や「世界の片隅に」がヒットしたりと環境は改善されていると感じますが、無難な趣味として市民権を得るには至っていないです。


これ惜しいのですよね。だって聞き手がアニメ好きの場合、爆発的に盛り上がりますから。だから聞き手がアニメ好きだと確信した場合だけ「趣味はアニメです」と伝えていいと思う。でもこれが非常に難しい。不可能に近い。リュックからアニメのポスターがはみ出ていると分かりやすくていいのですが普通はみ出ていません。アニメ好きはアニメが好きである事をあまり公言しませんし、見た目で判別するのは困難を極めます。新しく出来た友人などで最初はお互いアニメ好きであることを伏せていて、何年もしてから「えー、あなたもアニメ好きだったの?」となるこもしばしば。だから判別のためにみんな積極的にポスターをはみ出して欲しい。


マンガ

マンガも言いたくないですね。地味に言いたくない。マンガの話を出すと結構な確率で「ワンピースどこまで読みました?」って聞かれるのが嫌。ワンピースを話題に出す人は、日本人ならワンピースを確実に読んでいて、~編とかどこまで読んだかを申告できると思い込んでいることが多くて困ります。その自信はどこから湧いてくるのか。謎。私の場合、連載開始当初にちょっとだけジャンプで読んでいたけどもう記憶の彼方。えーと、なんか刀を口で咥えてて、手が伸びたりしたと思います。


読書

読書は一見無難な趣味に見えますね。ありがちな趣味のベスト5には入っていそう。でも私は絶対に趣味が読書とは言わない。というか私のプライドが邪魔をして言えない。もし他の人が「趣味は読書です」とのたまった場合、あまりにも無難過ぎる回答なので私は「あーこの人、きっと無趣味だから読書とか言ってるんだな」と決めつけます。そして「最近何を読みました?」って聞いて「世界から猫が消えたなら」とか返って来たら「はー、これ、半年に1冊ぐらいベストセラー読んでるだけで "趣味は読書" って言ってるパターンだ、はー」とげんなりします(※ 世界から猫が消えたならを批判する意図はありません。適当にベストセラーから選びました)。


つまり「読書が趣味」と言った場合、読書にわか勢だと決めつけられる危険性があるのです! 嫌だ、そんな有象無象と一緒にされるのは私のプライドが許さない。だからと言って「ガチの読書が趣味です」って言っても、なんか必死な人だなと引かれるに違いない。


NFL観戦

NFLを挙げた場合、返ってくる質問は2パターンしかありません。何度も試したので100%確実。


パターンその1「アメフトやってたんですか?」
回答「まったくやった事ありませんけど……というかNFL観るのにアメフトのプレイ経験が必要なんですか? じゃあなに? F-1好きな人はみんなF-1マシンに乗った事あるわけ?」


パターンその2「ラグビーと何が違うんですか?」
回答「なにもかも違いますよ。共通点はボールの形が似ていることぐらい。ボールの形が似ているだけで同じようなスポーツとされても困ります。あなたの質問は『大玉ころがしとサッカーはどう違うんですか?』と同じぐらいバカらしい質問です。」


いずれのケースでも私の逆鱗に触れる質問なのでたちが悪い。結局私がキレ気味に返答して場の空気が微妙になるという結末をむかえます。


ゲーム

ゲームってジャンル・領域が広がり過ぎていてお互い共感を得るのが難しくなってきています。コンシューマ、PCゲーム、ソーシャルゲーム、スマホ、アーケード、トレーディングカードゲーム、テーブルトークRPGなどなど。なので「あ、同じゲームやってる!」みたいなのは、ゼルダのような超超メージャータイトルじゃないと発生しません。


ちなみに私が今やっているゲームはSteamの「VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)」ジャンルはサイバーパンク・バーテンダー・アクションです。主人公がバーテンダーで、アドベンチャーゲームの選択肢の代わりにカクテルを提供するという異色のゲーム。スーパー面白いです。大好き。でもヴァルハラをやっている人をリアルで見つけるのは困難を極めますし、興味ない人にバーテンダーの素晴らしさを頑張って説明してもぽかーんとされそう。


Tumblr

この前「趣味はTumblrです」って言ったら、コーヒーとかを入れるタンブラーの話になりました。面倒だったので話を合わせました。


発想の転換

私の持っている趣味は「趣味はなんですか?」の答えとしては使えないポンコツばかりということが分かりました。この役立たずどもめ!


とまあここまで「趣味はなんですか?」に答えられない! というフリをして書いて来ましたが、実は私良い回答を発見ずみなのです。えへへ。私が回答出来なかったのは「趣味はなんですか?」に対して自分の趣味を答えなければならないという固定観念に囚われていたから。「趣味はなんですか?」って質問、実は趣味の事なんて聞いてなかったのです。聞き手はあなたの趣味なんて、これっぱかしも興味を持っていません。「趣味はなんですか?」と発した人の心の声に耳を傾けると「何か話のとっかかりになる事ありません?」と聞こえてきます。話が膨らみさえすれば、回答は趣味だろうがなんであろうが構わないのですよ。なんでこんな簡単な事に気づけずに長く苦しんできたのだろう。でもわかってしまえばどうという事はない。「趣味はなんですか?」と聞かれたら私はこう答えます


「リリアンでマフラーを編むことです」

いやー完璧な回答だとは思いませんか? 私の趣味はマフラーを編むことでも、ましてやリリアンでマフラーを編むことではありません。でもこの回答こそが正解なのです。「いや、いや、いや、リリアンでマフラーは編めないでしょww」と突っ込みが入り、リリアンの思い出や、そういえば子供の頃編み物が出来るおもちゃ持ってたなーといった風に話が広がります。趣味でもなんでもありませんが、話のとっかかりとしての機能はパーフェクト。


悟りを得た私は、その後趣味を聞かれたら「リリアンでマフラー」と連呼しておりました。ところが先日「へえ、いいじゃない」と同意されてしまうという現象に遭遇。うぇええええ。そんな、まさか。結局、私がなぜリリアンでマフラーを編むことが出来ないかを説明するはめに……。どうしてこうなった。どうやら「リリアンでマフラー」もすべてを解決する銀の弾丸ではなかったようです。私の「趣味はなんですか?」への回答を求める旅はまだ続く。