リズと青い鳥を正しく評価せよ

現在上映中の「リズと青い鳥」を観てきました。京都アニメーション制作、山田尚子監督作品です。それで「リズと青い鳥」について思った事を今日は書きます。


スピンオフ作品

リズと青い鳥は、「響け! ユーフォニアム」のスピンオフ作品です。響け! ユーフォニアムと同じ世界、時間軸を共有しています。作中の時間としては、響け! ユーフォニアムの2期の後ぐらい。主人公が、従来のユーフォニアムの黄前久美子ではなく、3年生になったオーボエの鎧塚みぞれと、フルートの傘木希美になっています。スピンオフというか、響け! ユーフォニアムの続編と言ってもよいと思うのですが、この作品にはタイトルに「響け! ユーフォニアム」という名称を使っていません。これが個人的には納得いかない。確かに絵が響け! ユーフォニアムとはかなり違っていたり、主人公が違ったりはするのですが、うーん、その判断はどうなんだろう。単独の作品としても視聴に耐えるように配慮されていたように思いますが、響け! ユーフォニアムを知っている方がより多く楽しめるのは間違いありません。もしかしたら制作側の響け! ユーフォニアムを超える新しい作品をつくりたいという気概の現れだったりするのかもしれませんが……。


この件、地味に実害があります。響け! ユーフォニアムのファンがリズと青い鳥が関連作品だって事に気づかない事とか絶対ある。実際私は、響け! ユーフォニアムが大好きなんですが、リズと青い鳥が関連作品だって事に気づいたのは公開直前ぐらいでしたもの。全然別の作品なのかと思っていた。だから「リズと青い鳥 ~ 響け! ユーフォニアム ~」こんな感じでちっこく末尾に入れておいてくれればよかったのに。


表現方法

京都アニメーションの作品は大体そうなのですが、セリフに頼らない表現が素晴らしかったです。この作品は、京都アニメーションの作品群の中でもすば抜けていると感じました。主人公の鎧塚みぞれが、無口キャラというのもあり、セリフ以外の部分で雄弁に語らせているのです。足元にカメラを向けて歩き方でどんなキャラクターなのか表現したり、みぞれが髪を掴む仕草をみせる、ちょっとした視線の動き、凝ったカメラーワークなどなど。もう私なんか終始「はー、山田尚子さんやべー、はー」とか脳内でシャウトしながらみておりました。


オーボエの音色

鎧塚みぞれがオーボエ担当なので、もちろんオーボエを演奏するシーンがあります。そのオーボエがすごくて。あんなに豊かな音色が出せる楽器なんだと感心しました。こういった音楽で観客を圧倒するってすごく難しいと思うんですよね。だって私、音楽なんてまったくの素人ですよ。音の良し悪しなんてわかりません。そんな私がガンガンに魂を揺さぶられたのです。なんか、テクニックでもあるんですかね? 「こんな風に音を加工すると、素人は簡単に感動しちゃうんだぜ。ちょろいわー」的な何か。もういいです、私はちょろいと思われていてもいい。だってちょろかろうがなんだろうが、私感動しましたもの。ぜひ皆さんにも聴いて欲しい、それも映画館で。映画館の音響設備は素晴らしいですからね。


描写の丁寧さ

この作品ですが、劇的な変化は描いていません。例えるならば、最初は手をつないでいたのに、3歩はなれ、それがまた近づいて背中合わせに。触れてはいないが、空気を通して相手の体温が感じられる。なんかそんなです。そんななんです。リズと青い鳥は、3歩ほど離れてしまったお互いの心の距離、それを90分丸々使って縮めてゆく物語です。その微妙な心の動きを丁寧に丁寧に描いています。その意味ではカタルシスは少ないのですが、すっと抜けてゆく風のような爽快感がある。


興行成績

リズと青い鳥の興行成績ですが、初週は11位だったとか。
※ 参考【週末アニメ映画ランキング】「名探偵コナン」が2週連続首位、「リズと青い鳥」は11位スタート。
今の所、興行成績はイマイチになりそうな雰囲気がある。


ちょっと話が変わりますが、「効率的市場仮説」という言葉をご存知でしょうか? 株式用語で、その会社の価値は速やかに株価に反映されていて、市場は完璧に効率的であるとする仮説です。この言葉の後は決まって「だから株価は常に適正価格なので、タイミングなど気にせずに株を買って長期保有しましょう」というように論理展開がされます。長期投資家のスローガンのような言葉です。私この「効率的市場仮説」って言葉大好きなのです。だって、その会社の価値が正しく株価で評価されているとか、公平で素晴らしいじゃないですか。この考え方、なにも株式市場だけでなくてもいいと思うのです。同様に小説、マンガ、アニメ、映画といったコンテンツに対する評価も効率的であるべきだ。私は「効率的コンテンツ仮説」を提唱します。


「効率的コンテンツ仮説」によればリズと青い鳥は、興行成績がすごいことにならないとおかしい。だって素晴らしい作品なんですから。映画館はパンパンにならないとダメだし、Blu-ray はヒュンヒュン売れないとダメなのです。「興行成績は振るわなかったが、知る人ぞ知る名作」みたいな褒め言葉? がありますが、そんなんはごまかし以外のなにものでもない。言い換えれば「名作なのにみんなが映画館に来てくれなかった」と同義なわけですから。このままでは、リズと青い鳥が埋もれてしまう。コンテンツ業界の効率性がたりない。「効率的市場仮説」の実現には、投資家の株の売買が必要なように「効率的コンテンツ仮説」の実現にはコンテンツの消費者である我々一人ひとりの不断の努力が鍵を握ります。ハイッ! というわけで、コンテンツ業界を効率的にするために、みなさん必要な行動を開始してください。全員、映画館にリズと青い鳥を観に行くように。2回は観てください。私も来週にでも2回目を観に行こうと考えています。初回は、みぞれに注目して観ていたので、次は希美の心の動きに注目したい。


f:id:notwen:20180509014639j:plain (『リズと青い鳥』公式サイトより)