私なら3発は撃つ

コンマ5秒だけ私の方が早かった。奴が懐から拳銃を抜くコンマ5秒だけ早く、私の体重を乗せた渾身のショルダータックルがクリーンヒットした。シュルシュルと音を立てて、黒い物体が視界のすみを滑ってゆく。奴のオートマチックだ。タックルした拍子で懐から飛び出したらしい。たっぷり2メートルは吹っ飛んだあいつは、後頭部を塀にしたたか打ち付けたらしい。まだ後頭部を押さえてうんうん呻いている。これはチャンスだ、私は飛びついき馬乗りになりやたらめったらと殴りつける。一発、二発、三発……。ゴスッ、ゴスッ、ゴスッという私の拳骨と奴の頬骨の衝突する音が頭蓋骨の中で反響する。何発目だっただろうか、奴の鼻血でぬめった拳が滑り地面を思いっきり殴りつけてしまった。これだけの興奮状態だ痛みは感じない。しかし地面を殴った事で、20cmばかり奴との距離が近くなった。瞬間、丸いものが私の視界を塞ぐ。

ガンッ!

え? 何をされた? ず、頭突き? グワンッと世界が回る。どっちが上でどっちが下だ?ああ、どうやら私が見上げてるのが上らしい。夜空が見えた。仰向けでぶっ倒れている私のそばに立つ人影も見えた。ボコボコの顔がこちらを向いている。腫れて半分しか開かない目がしっかりを私を見据えている。右手にはさっきすっ飛んでいったはずのオートマチックが握られている。銃口の先をたどるとちょうど私の眉間の辺りにたどり着きそうだ。奴の切れて血の出ている唇の端がニヤリと上がる。

「これで終わりだ」

だぁあああぁあ、もう! もう! 撃て! 早く撃ちなさい! スキを見せるな。お別れの言葉とかいいから。さっさと勝利を確定させなさい。私はこんな銃を突きつけながらなぜか撃たないという演出が大っ嫌いです。まったくもって意味が分からない。私だったら頭突きでぶっ飛ばした後に間髪入れずにぶっ放していますよ。確実を期するために3発は撃つ。というか元々殺す気ならば、距離を詰められる前に3発は撃つ。こういったシーンは大抵銃を突きつけてうだうだ喋っている間に仲間が助けに来ちゃうわけですよ。ほら言わんこっちゃない。早いとこ撃っとけばよかったのに。

フィクションで、ありていに言えば嘘のお話なんだからいいじゃんという考え方もあるかもしれません。でも私はフィクションは、上手に嘘をつくべきという思いがあります。見ているこちらが納得出来る嘘をついて欲しい。これはもう作り手側の義務と言ってもいい。例えば、銃を突きつける側が警察官で撃つのを躊躇するのならば納得できる。警察官は、犯人を射殺することではなく逮捕することが仕事ですから。もしくは、撃つ人が人を殺す事に怖気づいてしまっているというのでもいい。その場合はきっと引き金にかけた人差し指が震えていたり、呼吸が荒くなっていたりするんでしょうね。そんな撃たない理由の説明を放棄して、なぜか撃たないというのは承服できない。勝つチャンスがありながらも、作り手の職務怠慢で散っていったあまたの悪役たちの事を思うと私は涙を禁じえません。そんな不幸をもう二度と起こさないためにも、こんな言葉で締めくくりたいと思います。

獲物を前に舌なめずり……三流のすることだな。(相良宗介)

「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ! (プロシュート)