宇宙ヤバイは、ヤバくて美しい

"宇宙ヤバイ"コピペをご存じですか? 歴史のあるコピペですね。たぶん10年ぐらい前からある。吉野屋コピペの次ぐらいに有名。単純なコピペとしても、中の語句を入れ替えて使うテンプレートとしても広く使われています。当然私も知っていたわけですが、最近読み直してみて驚愕した。よい文章が持っている要素をすべて持っているのじゃないだろうか。この文章はすばらしい。宇宙ヤバイから現代を生きる我々が学ぶべき事はおどろくほど多い。僭越ながら以下に"宇宙ヤバイ"をコピペさせていただきます。

”ヤバイ。宇宙ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
宇宙ヤバイ。
まず広い。もう広いなんてもんじゃない。超広い。
広いとかっても
「東京ドーム20個ぶんくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ無限。スゲェ!なんか単位とか無いの。何坪とか何ヘクタールとかを超越してる。無限だし超広い。
しかも膨張してるらしい。ヤバイよ、膨張だよ。
だって普通は地球とか膨張しないじゃん。だって自分の部屋の廊下がだんだん伸びてったら困るじゃん。トイレとか超遠いとか困るっしょ。
通学路が伸びて、一年のときは徒歩10分だったのに、三年のときは自転車で二時間とか泣くっしょ。
だから地球とか膨張しない。話のわかるヤツだ。
けど宇宙はヤバイ。そんなの気にしない。膨張しまくり。最も遠くから到達する光とか観測してもよくわかんないくらい遠い。ヤバすぎ。
無限っていたけど、もしかしたら有限かもしんない。でも有限って事にすると
「じゃあ、宇宙の端の外側ってナニよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。
あと超寒い。約1ケルビン。摂氏で言うと-272℃。ヤバイ。寒すぎ。バナナで釘打つ暇もなく死ぬ。怖い。
それに超何も無い。超ガラガラ。それに超のんびり。億年とか平気で出てくる。億年て。小学生でも言わねぇよ、最近。
なんつっても宇宙は馬力が凄い。無限とか平気だし。
うちらなんて無限とかたかだか積分計算で出てきただけで上手く扱えないから有限にしたり、fと置いてみたり、演算子使ったりするのに、
宇宙は全然平気。無限を無限のまま扱ってる。凄い。ヤバイ。
とにかく貴様ら、宇宙のヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイ宇宙に出て行ったハッブルとか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。“

■ テンポはリズムになりやがて
宇宙ヤバイを注意深くみていくと、とても短い文で区切られている事に気づきます。「ヤバイ。」「まず広い。」「超がんばれ。」など3文字~5文字で構成される文が非常に多い。だから文章全体のテンポがいい。また「ヤバイ」という同じ単語を繰り返すことでリズム感が生まれています。「ヤバイ」に加えて「広い」「遠い」「凄い」と韻を踏んでいます。もうリズムなんて生やさしいものではありません。これはビート。空前のスピード感。

■ 9人のビリー・ミリガン
使われているヤバイは一つにみえて実は一つではありません。前後の語を巧妙に変える事で微妙に変化させています。「ヤバイ」「宇宙ヤバイ」「まじでヤバイよ」「マジヤバイ」「ヤバイよ」「宇宙はヤバイ」「ヤバすぎ」「宇宙のヤバさ」「ヤバイ宇宙」と9つのバリエーションが存在します。これによって「ヤバイ」の連呼も最後まで鮮度を失わないのです。

■ 正しい知識と理解に基づく
一見すると宇宙ヤバイは、脳みそ空っぽな文章にみえます。その実、そこここに正しい知識をちりばめています。宇宙が有限か無限かわからないとするところ、宇宙の温度、積分のくだりなどがそう。また「トイレが遠くなる」というような身近な具体例をもって理解を助ける努力をしています。それらがスカスカの文章に説得力を与えているのです。

■ 話のチェンジ・オブ・ペース
最後から二行目「とにかく貴様ら、宇宙のヤバさをもっと知るべきだと思います。」に注目して頂きたい。直前までぶっきらぼうな文章で通してきたのに、ここに来て急にですます調を使用しています。急なスピードダウン。それまでのスピードにならされた読み手はタイミングを外されます。してやられたと笑顔が漏れる。ここが宇宙ヤバイのピーク。

■ しかし完璧ではない
ここまでべた褒めしてきましたが、宇宙ヤバイにも付け入る隙あると考えます。私は最後の一行が蛇足だったのではないかと思う。「超がんばれ」という言い回しの面白さこそあるけれど、やっぱり要らない。一行前の「宇宙のヤバさをもっと知るべきだと思います。」がピークなわけで、そこで突き抜けたまま終わるべき。最後の一行さえ削除すれば、宇宙ヤバイは一分の隙もないパーフェクトな文章になる。しかしここまで完全に計算し尽くされた文章ですから、作者が最後の一行の不要さに気づかなかったとは考えにくい。あえて付け加えた可能性が高い。ミロのヴィーナスは両腕を欠いているからこそ普遍的な美しさを得ました。不完全だからこそ宇宙ヤバイは、ヤバイのか。

宇宙ヤバイ