宇宙開発の夜明けぜよ

私はずっと宇宙開発における暗黒時代に自分が生を受けた事を恨めしく思っていました。スペースシャトルが飛んでいる時代ではありました。スペースシャトルは、合理性こそ欠いていましたが夢の詰まった良い宇宙船でした。しかしながら、スペースシャトルの初打ち上げは1981年です。気づいた時には、もうそこにあったという印象で立ち会ったという感じはしていません。むしろ2011年のスペースシャトル(アトランティス)のラストフライトで見送ったという印象の方が強い。

国際宇宙ステーション(ISS)の建造と完成には立ち会う事が出来ました。ですが宇宙ステーション自体は新しいものではありません。それまでにもサリュート、ミール、スカイラブと本格的な宇宙ステーションは存在していましたから。作れる事がわかっている宇宙ステーションというものを、国際協力という新しい手法で作ったにすぎません。作り方が新しかった。

黄金時代は60年前

やはり宇宙開発のもっとも輝かりし時代は、1950年代から1960年代にかけての米ソの宇宙開発競争の時代でしょう。スプートニクから始まってアポロで終わるあの時代こそ至高。なんてったって、やることなすこと全てが初めて でしたから。史上初の人口衛星、初の有人飛行、ランデブー、宇宙遊泳、有人月探査、ぜーんぶ初めて。最高やないの。なんで私は現代に生まれてしまったんだ。アポロ計画の最後の着陸船が月を飛び立ってから45年、それ以来人類は月のレゴリスを踏んでいません。もちろん火星にも行ったことがありません。木星とか無理。ピテカントロプスにはなれない。

海外の掲示板サイトであるRedditに投稿された一文を引用します。

Born too late to explore the earth, born too early to explore space.

地球を冒険するには遅すぎ、宇宙を冒険するには早すぎる時代に生まれた。
Redditのスレッドより)

あれ? もしかして来てます?

そんな風に世をはかなんで日々過ごしていたわけなのですが、最近もしかして流れ変わりました? ビッグウェーブ来てません?

例えばこの前のファイルコン9の着陸中継とか感動して、漏らしそうになりました。地上への第一段の着陸回収をしたやつです。もっとも、ファルコン9の第一段はもう何度も着陸に成功していますし、スペースXからしたら慣れたものなんでしょうが、私は漏らしそうになった。むしろ少し漏らしたかもしれない。 というのもですね、第一段の着陸で最初から最後までバッチリカメラにおさまった事がなかったから。大体いつも、着陸の瞬間に映像が乱れ、映像が復活したらもう着陸が終わっていて「ハイ、着陸済みのロケットはこちらになります」てなもんですよ。今回はオンボードカメラも地上からのカメラも完璧だった。特に地上からのカメラがすごくて逆噴射がはっきりくっきり見えました。すごい、こんな事になっていたのか。


エレクトロン

この前、Rocket Lab社のエレクトロンというロケットの初打ち上げがありました。ほぼ正常に動いたそうだったのですが、残念ながら軌道投入には失敗しました。このロケットは太陽同期軌道へ110kgのペイロードを投入可能というかなり小型のロケットです。日本のイプシロンロケットよりさらに小さい。

エレクトロンは、かなりチャレンジングな技術を大量に取り込んでいてスーパー楽しいロケットに仕上がっています。軽さを求めて炭素繊維複合材をタンクとかに使っていたり、そしてなんと3Dプリンタでパーツを作っていたりするのです。私最初は「どうせ3Dプリンタで作っているのって、どうでもいいようなプラスチックのパーツとかでしょ? ハイハイ、3Dプリンタ、3Dプリンタ。」とか失礼なことを考えていたのですが、実際にはロケットエンジンの燃焼室、インジェクタ、ポンプなどを3Dプリンタで作っているらしい。もうそれらのパーツはロケットエンジンそのものと言っても過言ではない主要パーツです。すげえ、3Dプリンタすげえ。


ストラトローンチ

ストラトローンチ・システムズ社のロケット空中発射母艦もやばい。もうこの子の見た目やばないですか? 雑に2機の航空機をくっつけましたというフォルムが最高。ボーイング747(いわゆるジャンボジェット)からかっぱらってきたエンジンを6機搭載。全幅120mの世界最大の航空機だとか。ふぁーーーー。これで間にロケットを搭載して離床、空中で打ち上げロケットを発射するのです。


目撃せよ

私は考えを改めようかと思います。ここ三十年ぐらいは確かに暗黒時代だったかもしれません。でもそれが明日も明後日も続くと、どうして思い込んでいたのか。新しい乗り物が世の中に現れると様々な試行錯誤が行われます。例えば自動車なんかまさにそうでした。自動車の黎明の時代には、様々なエンジン、様々な形状、様々なアイデアが試されました。三輪自動車なんてのもありましたし、ドアが前面についているものも存在しました。決まって面白いのは、試行錯誤をしている黎明期です。今の宇宙開発には、その黎明の匂いがする。黎明の風を感じる。

先ほど引用したRedditの投稿文には実は続きがあります。ここに全文を引用致します。

Born too late to explore the earth, born too early to explore space, but born just in time to watch the first episode of Non Non Biyori Repeat. What a time to be alive.

地球を冒険するには遅すぎ、宇宙を冒険するには早すぎる時代に生まれた我々だが、のんのんびより りぴーとの初回というこの瞬間に立ち会うことができた。生きるとはなんと素晴らしきか。
Redditのスレッドより)

この時代に生を受けた事を喜びましょう。これから宇宙開発のもっとも面白い時代が始まるに違いないのですから。宇宙開発の夜明けを目撃せよ。